京都スタジオ事例2:センナカアトリエ — 山田麗音/小笠原 翔


京都スタジオ事例2:センナカアトリエ — [左から]松本 遼、山田麗音、小笠原 翔、湊 大介

2012年7月21日
場所:京都市中京区
インタビュー:HAPS インタビュー協力:太田景子 写真:小笠原 翔

二条駅の北側にある一軒家のスタジオに伺いました。ここではデザイナー、写真家、アーティスト等、様々な立場で活躍されている京都造形芸術大学の卒業生たちが集まる風通しの良い空間が広がっていました。


1家をつくる

ーこのスタジオはどのように探しましたか?
山田(以下 Y)/大きい部屋が一つ、個々が寝るスペースが取れるセパレートの部屋がいくつかあること、ある程度京都の中心部に近い場所を条件に部屋を探しました。不動産屋に行き、合計10件くらいは下見に行きました。現在のアトリエの情報が出た時に、僕はそれまで住んでいた家を出て行かなきゃいけない状況だったので、家賃の安さと広さが圧倒的な決め手となって、迷わずここに決めました。築100年で家賃は12万です。物件情報には二階の写真しか載ってなかったのですが、図面を見ただけで下見もせずに即決しました。

ーどのようなリフォームをしましたか。

小笠原(以下 O)/1階部分の床が一階部分の床がベトベトで、油のニオイが広がっていました。更に大家さんの荷物がそのまま残っていたのですが、現状貸しという条件だったので物の処分や片付けから始まりました。一階アトリエ部分の床にはコンクリートを流し、壁もほぼ新しく作ったりして、今の状態にするまでに一年くらいかかりましたね。実家が造形屋のアトリエメンバーのお父さんに来てもらったり、知人の建築家にアドバイスをもらって柱などの補強を入れたり、制作環境を0から作っていきました。僕たちの前に住んでいた6人くらいの建築家の集団が、既に二階は手を入れていて最初から綺麗だったので、二階部分はほとんど何も手をつけていません。


2シェアすること

ーシェアを始めたきっかけは?
O/僕と山田でシェアハウスをやろうと声をかけて、最初は5人が集まり、今年の春から1人が加わって現在は計6人でシェアしています。メンバーは全員京都造形芸術大学卒業なんです。制作場所を一人で確保するのが難しいので、複数名で広いところを一緒に借りた方がいいと思い、京都に残って活動していく人に集まってもらいました。

ー6人での生活はどうですか?
Y/去年の6月15日から借り始めて、今年で一年です。すごく長い合宿をしているようで楽しいです。
猫を一匹飼っているので、餌や玩具や育児本などの猫関連グッズや、細々した備品や共同で使うものは、みんなで少しずつですがお金を貯めているので、そこから支払っています。先日は、ちらし寿司パーティーのために寿司桶を買いました。基本的に皆、パーティーが好きなんです。誰かがふと思い立って飲み会をしたり、12月生まれのメンバーが4人もいるので、特に12月はパーティーばかりしていましたね。でもそういった機会に人脈の交換、交流があったりします。ビジネスライクな話は少ないですが。
O/話している時に「今度、写真撮ってよ」っていうことはありますが、そもそものパーティーをする目的がお酒を飲みたいからなので、そういう難しい話をしたくないっていうのがありますね。
また、一階は作業関係、二階はPC関係と分けていますが、二階に関しては生活と制作場所の境目が全然ありません。冬はその辺で寝ているので、毛布が作業スペースに置いてあったりもします。ゲームをして遊んでいる横で制作をしている状況はよくあり、休憩ついでに参加して一緒に遊んでいます。

ーシェアをすることによる制作面での利点は?
O/共同で一緒に制作している中に居ると、仕事を見られることはあるので緊張感も保てています。なんとなく、お互いに伸ばし合っていると思っています。僕はグラフィックデザイナーの松本くんに教えてもらって、自分のwebサイトを現在制作中です。逆に、彼の仕事の写真を僕が撮ることもあります。
Y/僕も仕事で撮影が発生したら、小笠原くんに頼んだりしますが、僕はまったく撮影にはノータッチで、できあがったものしか見ません。チーム制作という感覚ではなく、お互い良いものを作るため、良い仕事をするためにある程度の距離感を保っています。

ーシェアをする中で問題はありますか?
Y/現在アトリエにはアトリエ内に住み込みで制作をしている人と、制作だけをするためにアトリエのみを利用している人がいます。例えばアトリエ利用だけの人は持ち込んだ仕事を、自分の自宅に毎回持ち帰ることができません。でもアトリエ内に自分の部屋がある人は、共同スペースが居心地悪ければ部屋に戻ることもできます。解決策は無いのですが、こういった利用方法の違いによる自由度の差が出てしまう問題があります。


3京都での活動

—今後の活動に関して考えていることはありますか。
Y/印刷物、デザインの仕事をしていく中で思ったのは、案外京都の仕事が少ないということです。関西圏の中でも兵庫、大阪、滋賀などの美術館クラスの仕事は若い世代に声がかかりやすいのですが、京都はポッと出の若いデザイナーに話が来ることはすごく稀です。そういった中で、大きな仕事はなかなか回ってこないとわかっていながら、デザイナーとしてモチベーションを保つ僕なりの方法は、同級生や同世代の活躍している若いアーティストを見て影響を受けることです。そして、若い京都のデザイナーも若い京都のアーティストたちと同じように、何か盛り上げる方法があるんじゃないかと考えています。僕もプロダクションに入って企業でデザインをしている訳ではなく、フリーのデザイナーなので、姿勢としては作家活動をしている同世代のアーティストに近いと感じています。そしてまだ構想段階ですが、彼らを巻き込んで現在展覧会の企画を考えています。僕の周りには同年代の面白いアーティストがたくさんいます。みんな、制作に関してはもちろん誠意をもって取り組んでいるんですが、人に見せること、作品を売り込むことに関してはそれほど重点を置いていなかったりします。そもそも適切な方法がよくわからないのです。ただ、僕は彼らを紹介したいし、見られるべきだと思っています。否が応でもふるいにかけられる外の世界に彼らを連れて行き、そこで僕も含めて舞台に立てる状況を作りたい。展覧会という形も一つの方法で、また違う展開をしていくかもしれません。当面の目的は、それぞれが自らの振る舞い方を考えるきっかけになれば、と思っています。
O/本当に僕たちの周りのアーティストは爆発しますよ。相当の粒が揃っていて、個々でも面白いんですが、それが集結するとすごい力を持つと思います。まとめ方は色々あって、難しいかもしれませんが、きっとアーティスト達は良いもの作ってくれると思います。


4京都に対して

—これからの京都に期待していることは?

photo: HAPS

Y/京都に現代美術館が欲しい、という希望があります。若い世代のアーティストたちが、第一線で活躍するアーティストの仕事と自分の仕事を対等に見るために、毎回わざわざ電車に乗って遠くまで行かなきゃいけないっていうのが、少し残念です。できない理由は色々あるのかもしれませんが、京都での現代美術の盛り上がりが少しずつ目に見えて感じられるようになってきている今、あわよくばこのまま美術館も建ってくれたらな、と思っています。
O/2015年から京都ビエンナーレ等が始まる噂も聞きましたし、町全体で活気づいている気はしていますが、一般市民との温度差はあるように思います。もう少し繋がりができて、アートが町に浸透していけたらいいと思います。任せっきりじゃなくて、僕たちも関わって一緒に盛り上げて、中途半端なものではなく本当に良いものにしていきたいと思います。


● 山田麗音 Lennon Yamada
2007年よりコンセプチュアルデザイングループ「BACADESIGN」を発足。問題そのものが最終的なカタチを決定していく、ある種の放任主義的なデザインを手法として展開している。これまでに、展覧会印刷物や企業のロゴなどグラフィックを中心としたクライアントワークを手掛ける一方、実験的かつ実践的なデザインの展開を目的に、展覧会などにも多数参加。また、2011年4月よりintextの見増勇介と多角的な視点から『現在のデザインが持ち得る役割』を考えるためUST番組『end. New』を不定期で開催。現在に至る。
bacadesign.jp(2012年8月現在、工事中)
UST http://www.ustream.tv/channel/end-new

● 抜水麗生 Leo Nukumizu
京都市出身在住。漆喰と木材で彫刻作品を制作。初めての野外展示に向け、耐久テスト中。雨怖い。

● 松本 遼 Ryo Matsumoto
京都生まれ、京都在住。2009年京都造形芸術大学卒業。1年間広告制作会社に勤務後、2010年よりフリーランス。広告・webなどのグラフィックデザインを手がける。
受賞歴:uniqlo creative award 2007 佐藤可士和賞、読売広告大賞 2010 協賛賞、京都広告賞 2010 佳作 他
http://idvl.info/

● フクモト シンジ Shinji Fukumoto
フリーター。イラストと映像を主体に制作中。映像ユニットsample所属。
2011年 LOVE FOR NIPPON Art Project 「366 ART HEART COCORO」(渋谷パルコ)、2012年「KEIJI ITO DIRECTION/NEU7」(Tambourin Gallery)、「マグニチュード・ゼロ」(京都国際マンガミュージアム)、2012 LOVE FOR NIPPON Art Project 「366 ART HEART COCORO」(Nu 茶屋町)、その他京都の多数の飲食店で作品を展示中。
http://fukumotoshinji.jimdo.com/

● 小笠原 翔 Sho Ogasahara
岡山県生まれ、京都府在住。2009年京都造形芸術大学卒業、同年、北村大志とDESIGARTを立ち上げる。写真、3D、グラフィック、立体等の手法を使用し、表現を行う。展覧会やパフォーマンスの撮影も行っている。
受賞歴:2006年 第16回京都広告賞 京都府知事賞 久保田規子(DCI) 小笠原翔(P)、2008年 京都造形芸術大学 卒業制作展 学長賞、学科賞、2009年 エプソンカラーイメージングコンテスト大竹伸朗賞
http://sho-ogasahara.xii.jp/
http://desigart.net/

● 湊 大介 Daisuke Minato
和歌山出身。2012年京都造形大卒。同年四月よりアトリエ入り。特にメディアにこだわらず制作してます。現在は主にプロダクト。




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